80.湯築城 その3

この城跡は、愛媛県の決断によって救われました。

特徴、見どころ

丘の頂上からの景色

もちろん、丘の頂上まで登ってみることもできます。その頂上部分は本壇(ほんだん)と呼ばれていて、本丸と同じような位置づけです。現在では展望台として使われています。ここでも発掘調査は行われましたが、出土遺物はほとんど見つからなかったため、あまり城らしい展示物はありません。しかし展望台からは、松山城や道後の温泉街の景色を楽しむことができます。実は17世紀の初頭には、藤堂高虎がライバル関係にあった加藤喜明(よしあき)と伊予国を分割統治しており、喜明が築いた松山城を監視するために、高虎が廃城となった湯築城を一時使っていました。高虎も、今日われわれが湯築城から見る同じ景色を眺めていたのではないでしょうか。

城周辺の航空写真

丘の頂上へ
展望台がある本壇
道後温泉街の景色
松山城の遠景
藤堂高虎肖像画、個人蔵 (licensed under Public Domain via Wikimedia Commons)

その後

明治時代の1888年、愛媛県は湯築城跡に道後公園を開設しました。1953年には公園の中に動物園がオープンし、大変な人気となりました。しかし、1987年に動物園は他の場所に移転しました。その理由は、市街地の中で動物園からの悪臭と騒音が問題となったからです。元動物園だった区域は近代的な日本庭園になる予定で、その前に湯築城跡としての調査が行われました。その結果、数多くの遺物や遺跡が良好な状態で見つかったのです。そのため県は跡地の開発計画を変更し、1990年に歴史公園とすることに決定しました。発掘の成果や、一乗谷城のような他の城跡での事例に基づき、湯築城の復元工事が1998年に始まり、2001年に完成しました。城跡は2002年には国の史跡に指定されました。

内堀とそれを囲む土塁
入口に掲げられた湯築城の幟

私の感想

私は、湯築城がこんなにも大変な歴史を乗り越え、残ってきたことを全然知りませんでした。愛媛県の城跡を保存する決定には、今更ながら敬意を表します。もしそれがなかったら、松山城以前の伊予国の歴史を皆忘れ去ってしまっただろうからです。城跡を含む道後公園にはとても良い雰囲気があります。公園を歩いてみた後は、近くの道後温泉街に行き、伊佐爾波神社や道後温泉本館を見学するのもよいと思います。

道後温泉本館
伊佐爾波神社 (licensed under Public Domain via Wikimedia Commons)

ここに行くには

車で行く場合:松山自動車道の松山ICから約20分かかります。道後公園に駐車場があります。
公共交通機関を使う場合は、JR松山駅前から路面電車に乗って、道後公園駅で降りてください。
東京または大阪から松山駅まで:飛行機か高速バスを使って来られることをお勧めします。

リンク、参考情報

国史跡 道後公園湯築城跡
・「日本の遺跡39 湯築城跡/中野良一著」同成社
・「よみがえる日本の城10」学研
・「築城の名手 藤堂高虎/福井健二著」戒光祥出版

これで終わります。ありがとうございました。
「湯築城その1」に戻ります。
「湯築城その2」に戻ります。

80.Yuzuki Castle Part2

The beauty between the Inner and Outer Moats of Yuzuki Castle was restored.

Features

Entrance of Castle Ruins

Today, the ruins of Yuzuki Castle have been developed as the Dogo Park. The western and southern parts of it are the restored area. The western entrance, which was originally used as the back gate, looks like the front gate now. If you go across the earthen bridge over to the Outer Moat to enter the inside of the earthen walls, you may feel like you are inside a medieval castle. You can first visit the Yuzuki Castle Museum near the entrance to learn more about the history of the Kono Clan and how the area was first developed.

The aerial photo around the castle

The entrance of Yuzuki Castle Ruins (the Dogo Park)
The earthen walls along the Outer Moat
The Yuzuki Castle Museum

Restored Warrior’s House

Next to the museum in the western part, which is a middle-class warrior’s house, including the gate and mud walls in front of it, was restored. If you enter the house, you will see its interior was also restored because the layout was discovered by the excavation team. There are five mannequins representing people who once lived in the castle enjoying a poetry party in the meeting room, while another mannequin is preparing a meal and tea in the kitchen.

One of the restored warrior’s house
A view in the restored meeting room
A view in the restored kitchen

You can visit the other restored warrior’s house with the exhibition room inside. The reason for this is the original layout of it is not clear to see even though the excavation was already done.

The other restored warrior’s house
An exhibition in the room

High-class Warriors’ Residential Area

The southern part was originally used as a Japanese garden as well as the residential areas for the high-class warriors. You can now see the diagram on the lawn of how the residential were back then. The wild rocks of the hill still face where the garden was used to be, so the rocks might have been used as a natural scenery for the garden. I recommend seeing the Inner Moat with the earthen walls nearby.

The former residential areas for the high-class warriors
The wild rocks of the hill
The remaining Inner Moat

Unique Earthen Wall Exhibition Room

As for the earthen walls beside the Outer Moat, there is the exhibition room showing the earthen walls, inside them. You can see the original cutout model of the walls confirming how the excavation team penetrated, and explanation for them. This model was taken when the excavation was done and used to visualize how other earthen walls would have been restored. It is very interesting and easy to understand how great the construction was.

The exhibition room in the earthen walls along the Outer Moat
The original cutout model of the walls in the room

To be continued in “Yuzuki Castle Part3”
Back to “Yuzuki Castle Part1”

80.湯築城 その2

湯築城の内堀と外堀の間がきれいに復元されています。

特徴、見どころ

城跡の入口

現在、湯築城跡は道後公園として整備されています。その公園のうち、西側と南側の部分が復元地区となっています。もともとは搦手門として使われていた西側の入口が、今では正面口のようになっています。外堀にかかる土橋を渡り、土塁の内側に入っていくと、中世城郭の中にいるように感じるかもしれません。その入口の近くには湯築城資料館があり、そこでは河野氏の歴史やこの周辺地が当初からどのように開発されてきたのか学ぶことができます。

城周辺の航空写真

湯築城跡(道後公園)入口
外堀に沿っている土塁
湯築城資料館

復元された武家屋敷

資料館に隣接する西側部分には、中級クラスの武家屋敷が、その前にある門と土塀とともに復元されています。屋敷の中に入ってみると、その内装までが復元されています。発掘によって、その屋敷のレイアウトが判明したからです。会所と呼ばれる部屋には、5体のマネキンがあり、城に住んでいた人たちが集まって句会を楽しんでいる様子が再現されています。一方、台所ではもう1体のマネキンが食事とお茶の準備をしています。

復元された武家屋敷
復元された会所の様子
復元された台所の様子

復元された武家屋敷はもう1棟あるのですが、内部は展示室になっています。その理由は、発掘調査は行われたのですが、その屋敷の元のレイアウトが確定できなかったためです(2案作られたのですが、1つに絞れなかったそうです)。

展示室となっている復元武家屋敷
展示の様子

上級武士の居住地区

南側部分は、元は日本庭園と、上級武士の居住地区として使われていました。現在は、芝生によってその居住地区の範囲が示されています。丘の自然の岩場が今でも庭園があった場所に面していて、かつてはその庭園の借景であったのかもしれません。近くには、内堀が土塁とともに残っているので、こちらもご覧になってはいかがでしょう。

元上級武士の居住地区だった区域
丘にある自然の岩場
現存する内堀

ユニークな土塁の展示室

土塁は外堀にも沿っても築かれていますが、その内部に土塁についての展示室が作られています。そこにはオリジナルの土塁から切り出した土層模型があり、土塁がどのように積まれたのかわかるようになっていて、その説明板とともに展示されています。この模型は、発掘が行われたときに実際に土塁から切り出されたもので、他の場所に土塁を復元する際の参考とされました。とても興味深い展示であり、これらの土塁の建設がいかに大がかりなものであったか理解できます。

外堀に沿った土塁に設けられた展示室
展示室内の土層模型

「湯築城その3」に続きます。
「湯築城その1」に戻ります。